名古屋大学の小田裕昭准教授(研究当時)らが2025年3月に発表したラット実験で、「朝食抜き」と「運動不足」が重なると、体重は増えないのに内臓脂肪だけがたまることが報告されました。論文は2024年9月30日付で科学誌「Scientific Reports」に掲載されています。
人で同じことが起きるかは、まだ確かめられていません。それでも、筋肉が落ちやすく活動量も減りがちな60代にとって、見過ごせないヒントが詰まった研究だと私は考えています。
この記事では、次の4つを整理します。
- 2025年の研究で、具体的に何が行われ、何が分かったのか
- 2018年・2022年から続く、同じ研究グループの流れ
- 研究の限界と、発表から1年半たった今わかっていること
- 60代女性が今日から取り入れられる、無理のない朝の整え方
名古屋大学の研究とは?朝食抜き+運動不足で内臓脂肪だけ増加
ひと言でいうと、運動不足のラットに朝食を抜かせたら、体重は変わらないのに、お腹の中の脂肪(内臓脂肪)だけがはっきり増えたという研究です。
論文のタイトルは「Physical inactivity and breakfast skipping caused visceral fat accumulation in rats(不活動と朝食欠食がラットに内臓脂肪蓄積を引き起こした)」。著者は筆頭のSyunsuke Nakajima氏、半澤史明氏、池田彩子氏、そして小田裕昭氏の4人です。
実験の中身を、できるだけ噛み砕いてみますね。
- 対象:オスのラット29匹(報道によると、朝食抜き群15匹・対照群14匹)
- 運動不足のつくり方:坐骨神経を切る手術で、自発的な動きを減らした「不活動モデル」。大学の発表資料では「活動量を半分にする」と説明されています
- エサ:脂肪がやや多めのエサ
- 期間:11日間
- 食べる時間:対照群は活動期の始まりから12時間、朝食抜き群は活動期の始まりから4時間あけて8時間
報道では、両グループの食べた量は同じだったとされています。つまり「量」ではなく「食べ始めるタイミング」だけを変えた実験なんです。
結果、朝食抜き群は体重の増え方こそ対照群と変わらなかったものの、内臓脂肪が統計的にはっきり増えていました。論文の要旨によると、肝臓と、お腹の中の脂肪組織(精巣上体周囲脂肪)で、体内時計に関わる遺伝子や脂肪を合成する遺伝子の働きが変化し、血中のインスリン値にも違いが出ていたそうです。
なお、筆者が確認した大学の発表資料と論文要旨の範囲では、「内臓脂肪が何%増えたか」という数字までは示されていませんでした。ここは無理に数字を作らず、「はっきりした差が出た」と受け止めておきましょう。
研究グループは発表の中で、これまで仕組みがよく分かっていなかった「お腹ポッコリ型の肥満」に、不規則な食生活と動かない生活が関わっていると説明しています。
私がいちばん引っかかったのは、「体重計の数字は変わらないのに、お腹だけ出てくる」という結果です。健康教室で、同世代の女性から本当によく聞く言葉だからです。
「体重は若い頃とそんなに変わらないのに、スカートのウエストだけがきつくて」。こうした声は、毎年のように出てきます。体重だけを見ていては気づけない変化がある、という点で、この研究は私たちの実感とよく重なっていると感じました。
2018年・2022年からの流れは?時間栄養学で読む3つの研究
この2025年の発表は、小田氏らが積み重ねてきた研究の“3段目”にあたります。並べると、流れがとても分かりやすくなります。
| 発表 | 掲載誌 | 動物・エサ | 主な結果 |
|---|---|---|---|
| 2018年10月 | PLOS ONE | ラット・高脂肪食 | 肝臓の体内時計と体温リズムが遅れ、体重が増加 |
| 2022年3月 | British Journal of Nutrition | マウス・普通食 | 体重が増え、筋肉の重さが減少 |
| 2025年3月 | Scientific Reports | 不活動ラット・やや高脂肪食 | 体重は変わらず、内臓脂肪が増加 |
2018年の研究では、朝食を抜いたラットで、肝臓の時計遺伝子や脂肪を合成する遺伝子のリズムが2〜4時間ほど遅れ、体温が上がるタイミングも4時間遅れていました。エネルギーを使う量が減り、体重が増えたと考えられています。
2022年の研究では、普通のエサでも、活動を始めてから最初の4時間食べない生活を4週間続けたマウスで、体重が増え、筋肉の重さが減りました。研究グループは、メタボだけでなく、ロコモティブシンドロームや加齢による筋肉の衰え(サルコペニア)の危険も高まる可能性を指摘しています。
そして2025年の研究で、「動かない」という条件が加わると、脂肪のつく場所がお腹の中に偏ることが示されました。論文の要旨でも、内臓脂肪のはっきりした蓄積は、それまでの朝食抜きだけの実験や、不活動だけの実験では見られなかったと書かれています。
こうした「いつ食べるか」を研究する分野は時間栄養学と呼ばれます。早稲田大学の柴田重信教授(研究当時)らも2021年に「Cell Reports」で、1日の総量が同じでも、朝にたんぱく質を多くとったマウスのほうが筋肉が増えやすかったと報告しています。
3つを並べて私が感じたのは、「朝食抜きの害は、年齢とともに増える“動かない時間”と組み合わさって強まる」という構図です。体重増加、筋肉の減少、そしてお腹の脂肪。どれも60代女性の悩みの中心にあるものですよね。
研究への反応と限界は?1年半後の今わかっていること
発表直後の2025年3月には、科学ニュースサイトや技術系メディアが相次いで取り上げ、「朝ごはんは食べたほうがいいようだ」という論調で紹介しました。英字紙でも報じられ、その際には小田氏の所属が名古屋文理大学と紹介されています。研究者データベースでも、小田氏は2026年時点で名古屋文理大学の教授となっています。
一方、マイナビニュースは、無理に運動しなくても日常でこまめに動き、朝食をきちんと食べることで予防できる「可能性を示唆」と、慎重な言い回しで伝えていました。私はこの温度感が、いちばん正確だと思っています。
なぜなら、この研究にははっきりした限界があるからです。筆者として、「この研究で言えないこと」を正直に整理しておきます。
- 期間が11日間と短い:数カ月、数年続けたときの変化は分かりません
- 対象はオスのラットだけ:女性ホルモンの影響を受けるメスでの結果は示されていません
- 運動不足は手術でつくったモデル:神経を切って動きを減らした状態は、人の「座りっぱなし」とは性質が違います
- 運動量の減り方の表現に幅がある:大学の発表資料は「半分」、論文要旨は「軽度に減少」と書いています
- エサは脂肪がやや多め:和食中心の日本人の食事とは条件が異なります
特に気になったのは「オスだけ」という点です。大学の発表も、主に「中年男性に多いお腹ポッコリ」を念頭に説明していました。女性は閉経後に内臓脂肪がつきやすくなると一般に言われますが、その時期の体で同じことが起きるかは、この研究からは分かりません。
では、発表から1年半たった2026年10月の今、人で確かめた研究は出たのでしょうか。筆者が調べた範囲では、この「朝食抜き×運動不足→内臓脂肪」を人で直接検証した研究は見当たりませんでした。
人を対象にした「朝食論争」自体は、今も決着がついていません。オーストラリアのモナシュ大学などが2019年に医学誌「BMJ」で発表したメタ解析では、13件の臨床試験をまとめた結果、朝食をとった人のほうが1日の摂取カロリーが約260kcal多く、体重も約0.44kg重かったと報告されました。
ただ、この解析の追跡期間は24時間から16週間ほどと短く、物差しも主に「体重」です。今回の名古屋大学の研究が示したのは、体重が変わらなくても内臓脂肪は増えうるということでした。体重だけを比べた研究では、この変化はすくい取れないのではないか。私はそこに、この研究が議論に加えた新しい問いがあると考えています。
16時間断食は60代に向いている?実験のラットは「8時間だけ食べる」生活だった
ここで、多くの紹介記事が触れていなかった点を一つ指摘させてください。
2025年の実験で、朝食抜き群が食べられたのは1日8時間だけでした。残りの16時間は何も食べていません。これは、流行している「16時間断食(8時間だけ食べる方法)」と同じかたちなんです。
しかも、食べる時間帯は活動期の後ろ寄り。人でいえば、朝食を抜いて昼から夜にかけて食べる、いちばんよくある16時間断食のスタイルに重なります。
もちろん、ラットの実験をそのまま人に当てはめることはできません。それでも、「食べない時間を長くすれば健康的」とは限らず、どの時間帯に食べるかで結果が変わりうることを示した点は、見逃せないと私は感じています。
人の研究では、2020年に医学誌「JAMA Internal Medicine」に掲載されたアメリカの「TREAT試験」がよく知られています。昼12時から夜8時までに食べる方法を12週間続けたグループでは、体重の減り方は普通に3食とったグループとあまり変わらず、減った体重のうち筋肉などの除脂肪量の割合が大きかったと報告されました。
この試験の対象は64歳までの成人です。60代後半以降のデータではありません。それでも、もともと筋肉が落ちやすい年代が、わざわざ筋肉を減らしかねない方法を選ぶ理由は乏しいと考えます。
健康教室でも、「娘にすすめられて朝ごはんを抜いてみたけれど、昼前にふらふらする」という相談を受けることがあります。時間を区切って食べる方法そのものを否定はしません。ただ取り入れるなら、朝食は残して、夕食を早めに終える方向のほうが、60代には理にかなっていると私は思います。
考察:60代女性が今日からできる「朝を整える」3つのこと
3つの研究を読み通して、私がいちばん大切だと感じたのは「何を食べるか」より前に「起きてから最初の食事をいつとるか」です。どの実験も、食事の中身ではなく“タイミング”を変えただけで、体内時計や脂肪のつき方に違いが出ていました。
今後、高齢者向けの食事のアドバイスでは、「何を・どれだけ」に加えて「いつ」が、もっと具体的に語られるようになると私は見ています。そのうえで、研究から読み取れることを、無理のない3つの行動にまとめてみました。
1. 起きてから1時間以内に、何か口にする
まずは時刻をそろえることからです。量を減らすダイエットから始めるより、引き算はあとで十分。食欲がない朝は、具だくさんの味噌汁1杯やヨーグルトだけでもかまいません。
2. 朝にたんぱく質を一品足す
筋肉を守るために、朝のたんぱく質を意識しましょう。手間をかけずにそろうものを挙げておきます。
- 納豆1パック、卵1個
- サバやイワシの水煮缶、焼き鮭
- ちりめんじゃこ、豆腐の味噌汁
健康教室では「この中から毎朝1つか2つ」とお伝えしています。全部そろえようとすると、3日で疲れてしまう方が多いからです。
3. 食後に5〜10分、こまめに動く
2025年の研究は「動かない」ことが条件でした。朝食を整えるだけで完結させず、食器洗い、ゴミ出し、近所を一周するなど、こまめに体を動かすこととセットで考えたいところです。
注意点も2つだけ添えます。和朝食は塩分が多くなりがちで、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、女性の食塩の目標量は1日6.5g未満です。味噌汁は具だくさんにして汁を少なめに、漬物は2〜3切れまでを目安にしましょう。
また、納豆に多いビタミンKは、ワルファリンという血液をサラサラにする薬の働きを弱めることが知られています。服用中の方や、糖尿病・腎臓病などで治療中の方は、食事を変える前に必ず主治医や薬剤師に相談してください。
正直に言えば、この研究だけで「朝食を食べれば内臓脂肪が減る」とは言えません。ただ、筋肉を守りたい60代にとって、朝食を抜くメリットは小さく、整えるデメリットもほとんどない。研究を読み込んだうえでの、私なりの結論です。
まとめ:朝食抜き+運動不足の研究から、60代が受け取りたいこと
名古屋大学の小田裕昭氏らのラット実験では、運動不足の状態で朝食を抜くと、体重は変わらないのに内臓脂肪だけが増えることが報告されました。2018年の体重増加、2022年の筋肉の減少に続く、同じグループの3段目の研究です。
11日間・オスのラットのみといった限界があり、人での検証はまだこれからです。それでも、朝食の時刻をそろえ、たんぱく質を一品足し、こまめに動く。この3つは、60代の私たちが今日から無理なく試せる、穏やかな一歩だと思います。
よくある質問
朝食を抜くと人でも内臓脂肪が増えるのですか?
まだ分かっていません。名古屋大学の研究はオスのラットで11日間行われたもので、筆者が調べた範囲では、2026年10月時点で人で直接確かめた研究は見当たりませんでした。人の研究では体重を物差しにしたものが多く、内臓脂肪への影響は今後の検証が待たれます。
朝食は何時に食べるのがいいですか?
決まった正解の時刻はありません。研究で問題になったのは「活動を始めてから最初の食事を遅らせること」なので、起きてからあまり間を空けず、毎日なるべく同じ時刻に食べることを意識しましょう。
60代でも16時間断食をしていいですか?
慎重に考えたほうがよいと筆者は考えます。人の研究では、朝食抜き型の方法で筋肉などの除脂肪量が減ったという報告があります。試す場合は朝食を残して夕食を早める形にし、持病のある方は事前に主治医に相談してください。
(文・高橋陽子)
62歳のシニアフィットネスライター。長年、地域の健康教室でシニア世代の運動サポートに携わり、大学の発表資料や論文、厚生労働省などの公的情報をもとに、無理なく続けられる体づくりの方法を調べて発信しています。医師・管理栄養士ではないため、個別の食事指導は専門家にご相談ください。
※本記事は一般的な情報をまとめたもので、効果には個人差があります。持病のある方や治療中の方は、食事を変える前に医師にご相談ください。
